グルテンフリーの嘘、本当(9)現代の小麦(3)小麦の魂胆
今回から、いよいよ本丸の「現代の小麦」の話に戻りましょう。
地球上にある植物は、種を作り、次世代を残すために、他のものを利用するように進化してきました。
たとえば、「杉」や「ヒノキ」のような「針葉樹」は、風を利用して、花粉を飛ばして受粉するように進化しました。
今では「花粉症」の原因になるとして嫌われていますけれどね(笑)。
その「針葉樹」よりもさらに進化した「広葉樹」は、「花」を咲かせて昆虫に発見してもらいやすくし、「蜜」を準備して誘い、昆虫の力を借りて受粉させています。
道に生えている小さな草も同じように花を咲かせていますね。
しかし、もし風が吹かなかったら、「針葉樹」は次世代を残せません。
同じように、昆虫がいなかったら、「広葉樹」や草たちは次世代を残せません。
つまり、色々な生物や現象と、相互に依存しながらかかわりを持っているのです。
花の蜜がなければ生きていけない昆虫も多いですからね。
ところが「小麦」という植物は、野生の中で生きていくことを放棄し、人間に育てられる道を選んだのです。
人間の「主食」としての炭水化物を提供する替わりに、管理して育ててくれやすいように進化したのですから。
そのおかげで、小麦は今、空前の繁栄を謳歌しています。
世界の作物の作付面積で第2位を確保し、人間に育てられる恩恵を享受しています。
野生に近い古代小麦と呼ばれる小麦たちは、まだ本来の生態を保っていますが、「現代の小麦」と言われる、今現在人類が食べているほとんどの小麦は、人間に育てられることを選んだ小麦たちなのです。
人間に育てられるための生態は何かというと、
(1)実が熟し、種になった時に「穂」から脱落しないということ。
(2)背が低く、茎が太くて風などに対して丈夫なこと。
本来の野生植物は、種を自ら落とさないと、次世代が育ちませんよね。
又はリンゴなどのように、甘い実をつけ、鳥に食べてもらって種を遠くに運んで、糞と一緒に排泄してもらわないと次世代は育つことができません。
ところが、「現代の小麦」は、人間の長きにわたる「品種改良」という努力の結果、なんと!!、
「種が穂から脱落しない」という性質になっているのです。
それは栽培する人間にとっては、まことに好都合です。
地面に種が落ちちゃったら、たくさん収穫することは不可能だからです。
しかし、古代小麦には、まだこの「種が脱落する」という古い性質が残っていて、誠に作りづらいのです。
古代小麦を作っている方の努力に感謝せざる得を得ませんね。
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この有名なミレーの絵画「落穂ひろい」は、小麦がまだ脱落性を持っていた時代に描かれたものです。
今ではこんな風景を見かけることは無くなりました。
古代小麦以外はこの「落穂ひろい」をする必要がないですからね。(笑)
ところで、近年のテクノロジーである、人為的な品種改良を施していない小麦ですら、この「難脱落性」を身に付けています。
それの証拠に、「小麦農林61号」という、日本では名の知れた品種があります。
この品種は、昭和9年、福岡の九州小麦試験地というところで交配され、昭和19年太平洋戦争の最中、佐賀県農業試験場で育種の結果生まれたそうです。
つまり、現代のテクノロジーによる「放射線育種」などの改変をやる、はるか前の時代の品種なのです。
その品種でさえ、脱落せずに「穂発芽」してしまうと言う性質があるのです。
「穂発芽」というのはどういうことかというと、穂から種が脱落することなく、穂の中から発芽してしまうことを言うのですが、なぜそれが起きるかというと、当然「難脱落性」があるからです。
小麦は「発芽」するとどうなるかと言えば、要は育つのに必要な栄養を胚乳部分から取り出す為に酵素が働き出して「デンプンは糖分へ」、「タンパク質はアミノ酸へ」と分解していくのです。
アミノ酸と糖分は、小麦の発芽に必要な栄養素だからです。
そのような発芽が始まった状態で粉になった小麦粉を「低アミロ小麦」と呼んでいます。
「低アミロ」とは、「アミログラフ」と呼ばれる、小麦粉の「粘度」を測定する装置で測った時の数値が低いという意味です。
つまり、粘り気のない小麦になってしまっているという時に使う言葉で、こうなった小麦は、パンにするにせよ、うどんにするにせよ、まったくを持って粘り気がなく、加工に適していない、本来の小麦粉とは別物になってしまうのです。
だって、たんぱく質が酵素の働きによりアミノ酸になると、当然「グルテン」はできませんし、澱粉がやはり酵素の働きにより糖分になると、うどんの粘りや繋がる要素すら失ってしまいますから。
その結果、市場ではまったく値段が付きません。
ということは、「破棄」するしかないんですね。
だから、「穂発芽」は小麦を育てるうえで、本当に厄介な問題なんです。
そのために、今現在も、日本では様々な努力が重ねられています。
農林61号の穂発芽については、「こちら」をご覧ください。詳しく書いてありますよ。
その他に、「穂発芽」について詳しく書いたサイトは「こちら」です。見てね。
この「現代の小麦」の最大の問題点を克服するために、今アメリカやカナダ、オーストラリアなどで行われている、驚くべき栽培方法があります。
次回はその栽培方法について、書いて行きたいと思います。
上の写真2枚は、南米のボリビアの首都のラパスの名物料理の「Salteña](サルテーニャ)。
なんと!!、「スープ」を中に閉じ込めたミートパイです。
「小麦粉」を使って作らないとこんな風にはできません。
だから、「小麦粉」も大切な食文化には必要不可欠なんですね。
良い小麦を選びましょう。(これが合言葉ですよ)