2019-04-19

グルテンフリーの嘘、本当(4)現代の小麦(1)

今まではグルテンフリーとウィートフリー(小麦フリー)の違いや、グルテンを含まない米でも、粉物になった時には注意が必要ということを書いてきましたが、今回からは小麦の話を書いていきましょう。

最近の出版本で、–小麦は良くないから食べない方が良い–という本が良く読まれているようです。
代表格は、ウイリアム・デイビス著 白澤卓二訳の「小麦は食べるな」とか、世界的に有名になったテニスのアスリート、ノバク・ジョコビッチ著 タカ大丸訳の「ジョコビッチの生まれ変わる食事」などです。
それを熟読すると、なんだか変な記述が出てきます。
「現代の小麦」とか「最近の小麦」とか・・・・・
ほう、小麦にも現代っ子がいるのね・・・なんて冗談を言いたくなってしまいます。(笑)
しかし、それと呼応するように「古代小麦」と呼ばれるものがあります。
その「古代小麦」については、また後ほど書くことにして、今回はその現代っ子の小麦について書いてみたいと思います。

「現代の小麦」「最近の小麦」とは一体何でしょうか。
前出の本の「小麦は食べるな」によると、
ここから引用–「私達が日々食べているブランマフィンやオニオンチャバタなどに巧妙に形を変えているものはかつての小麦ではなく、20世紀後半に行われた遺伝子研究によって形質転換されたものです。現代の小麦が本物の小麦なら、チンパンジーは人間だというようなものです。」–引用終わり。
そして、同じくジョコビッチの本によると、
ここから引用–「さらに悪いことに、最近の小麦およびその他の穀物は、人体にさらにダメージを与えるような遺伝子組み換えが行われている。農業遺伝子工学を研究する科学者たちの研究によると、遺伝子組み換え小麦—-今日地球上で食されている小麦のほぼ100%だ—-に含まれるグルテンは、自然界に存在するものとは構造的に異なると言う。」–引用終わり

これを読むと恐ろしくなって、小麦は食べられなくなってしまいますね。
だって、現代の小麦は地球上の小麦のほぼ100%だというし、チンパンジーが人間だなんて、信じられないような比喩を使っていたり・・・・
しかし、これはかなり大雑把な記述ではないでしょうか。
たとえば民族にだって、「少数民族」という人たちもいます。それを抹殺するような書き方だし、あまりにも漠然としています。
そして、本を読み進むと、いちいち「現代の小麦」とか「最近の小麦」とは書かれている箇所は少なくなり、記述のほとんどが「小麦は・・・・」というように、小麦そのものが良くないというイメージが植え付けられてしまいます。
いったいどんな小麦がだめでどんな小麦が良いのか・・・・・
そもそも「現代の小麦ってなーに??」。

小麦の遺伝子操作については、前出の「小麦は食べるな」の30ページ~39ページに大雑把ではあるけれど書いていあります。
確かに今、地球上で栽培されている小麦のかなりの割合が、このページに書いてあるような「品種改良」に拠った物です。
しかしこれはアメリカ人のドクターが書かれた本ですから、日本の国産小麦の実態とはちがったものになっていると思います。
そしてわずかに生き残って作られている「古代小麦」たち。

グルテンフリーが良いという考え方は、前述の「変質してしまったグルテン」について言っていることと思われます。
グルテンが悪いのではなく、変質してしまったグルテンが良くない・・・・・
そこに注目すると、私は変質していない小麦を選ぶ目を持てば、心配は無用ということになると思いますが、いかがでしょうか?。

グルテンそのものが悪いということはありえません。それは、たとえて言うと、「人参が悪い」というようなものです。
農薬を残留するほど与えて育てた人参は人体には良くないのは当たりまえでしょう。
しかし、人参そのものが悪いのではありませんよね。安全に育てられた人参はとても美味しいです。
グルテンについても同じことが言えると思います。

画像はクリックすると拡大します

グルテンフリーの嘘、本当(4)現代の小麦写真・・広大な小麦畑が続く北スペインのメセタの大地を行く巡礼者。
巡礼者はタンボ・ロッジの支配人です(笑)。
2012年に私達が巡礼した時の写真です。
この小さな石ころがゴロゴロと土に含まれている広大な台地には、おそらく小麦以外の穀物を育てるのが大変だと思われます。
だから、小麦を否定すると地球を飢餓が襲うでしょう。
みんなで良い小麦を育てている人を応援しましょう。

 

ここまでは小麦の品種改良=遺伝子操作が「現代の小麦」を生んでしまって、それが自然と反するものになっているということを、本を引用しながら書きました。
以下では、その品種改良の話をしましょう。

「品種改良」という言葉はよく聞きますね。
なんだかそんなに悪いイメージの言葉には感じません。(笑)
良くも悪くも、作物を人間に都合のよいものに変化させるために行われています。
たとえば米や麦だと、背が低く、風などで倒伏しにくい、多収(他のものよりたくさんとれる)、病気に強い、寒さに強い、暑さや日照りに強い・・・・ここまでは作る側の都合ですね。
そして、おいしい、米ならば、モチモチしていておいしく感じる、パンならば、良く膨らんで、ふかふかの食パンができる・・・などです。こちらは消費者の消費行動に起因しています。
野菜も同じです。かなりの品種改良がおこなわれています。
これらは人間にとっては極めて都合が良い面を持っています。
しかし、それが食べた人の健康にどう影響を及ぼすかは、実際にほとんどわかっていません。

ところで、日本では、昭和26年以降に盛んになった、「放射線照射」による品種改良があります。
「放射線育種」とも呼ばれています。
それはどういうものかというと、改良しようという作物の種に放射線を照射し、突然変異(奇形)を作り、それが人間の都合に合致する性質を示すならば、数年にわたって種を取りながら育てて、その性質が固定化したのを見計らって、新しい品種としてデビューさせるというものです。
放射線にも何種類もあって、それを駆使するんですね。
たとえば「γ線(ガンマー線)」という放射線は、その作物が「後世獲得した性質をキャンセルする」という性質が強い改良になります。
つまり、小麦で考えると、他の植物と競争しなければいけない野性的環境では、背が高くならないと、太陽の光を浴びることができずに、枯れてしまいます。
だから、小麦は生き延びるために、「背が高くなる」という性質を獲得していくんですね。
種をつないできた、ヨーロッパの古代小麦は背の高い品種が多いのはこのためです。
しかし、圃場では、他の競争する植物は、人間が借り払って管理します。
そのため、背が低い方が風にも倒れにくく、好都合というわけです。

放射線により、品種改良された植物は本当にたくさんあります。
なにも小麦だけではありません。
だから、それが体に悪いと言うならば、小麦や大麦、ライ麦を避ける「グルテンフリー」を実践ただけでは何の意味もありません。
驚くことに、日本の中だけで考えると、「小麦」の放射線育種は2000年のデーターを見ると、現在2品種だけです。
それに引き換え、「お米」の放射線改良は、なんと!!46種類にも及びます。(2000年のデーター)
そのデーターは、IAEA(国際原子力機関)のホームページのデーターベースで確認ができます。
データーのアドレスを貼り付けておきましょう。
なんと、88ページにも及ぶ膨大な量ですよ。
http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/Newsletters/MB-REV-12.pdf

ただし、その放射線育種が体に悪いという確立されたデーターはありません。
しかし、「特定非営利活動法人Axis委員会連合」のホームページでは、そのことに対して、警鐘を鳴らしています。
品種改良の方法も、詳しく出ているので、参照していただけるとありがたいです。
http://axis-organic.com/essei/post-51.php

グルテンフリーの嘘、本当(4)現代の小麦(1)写真はペルーの秘境Mayobamba近くの村の小さな小麦畑。
地種の小麦が黄金に実った美しい春の風景です。

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